いつかの話 10/17

10月17日

午前

11:13

「100m先、左方向です。ガソリンスタンドが目印です」

「油種を選択して下さい、、金額が正しければ、、レシートをおとり下さい、、。」

「ETCカードが挿入されました」

その朝僕は運転席に座っている。
ハンドルを握ったところで助手席の足元に、タバコの匂いを消すための中型の消臭剤が置かれているのに気がついた。よく見るとパッケージにはジェルがいかに強力であるかを示すようなフォントが貼られている。車の窓を全て開け、消臭剤をトランクの隅に閉じ込めた。なんにも匂いも要らない。曇り空の下、軽く踏んだアクセルは思いのほかエンジンを荒立てた。
住所は聞いたはずだったけれどLineを開くのも煩わしく、谷川君家の一番近い駅にナビの目的地を設定して、自宅周辺はナビを見ずのんびりと向かった。

「100m先、左・・・」
冷静に聞けば変ななまりの声なのだが、今時音声を変な音程などと言う人はいない。

そして返事をする人もいない。

「うん」。

5分ほど走らせた街道沿いのガソリンスタンドに入った。借りている車だから給油口の位置が分からない。セルフだったので一番近い位置に止めたが当たっていた。6945円で満タンにはなったが、レバーを少しずつ押して7000円丁度になってからノズルを置いた。

「油種を選択し・・・」
音声を遮るように指でタッチしていく。確か数分前にそんな事を聞かれた。

「あれっ、レギュラー押したっけな。」

渋谷区に到着し谷川君とギターとキャリーバックを消臭剤が在った車に乗せ高速道路へと車を滑らせていく。

高速道路は大きく弧を描きながら、見ようとした地平線と灰色の空に沿って出来るだけ真っ直ぐに伸びている。静岡市へは3時間で着いてしまった。鰻を諦めて吉野屋に入る2人の関係の無頓着さがこの冒険の味だった。無理に思い出を作ろうとするにわかアーティスト根性みたいなのが好きなのか嫌なのか、分からぬまま会場の「あそびば」に到着した。

オーナーが同い年ってだけでシンパシーを感じるタイプの僕とよく話しを盛り上げてくれた。着替えをする為に入れてくれた厨房には「人情8割り、勘定2割り」的なことをマジックで書いた紙が貼られていた。おいおい31歳でそれを言ってしまうか。どんだけ優しく生きて行くんだよとほっと息が出た。

良く鳴っていたスピーカーを横目に、最前列にいた男性がUNCHAINの曲タイトルをいつかはっきり僕に言った記憶だけが残っているが無事にライブは終えた。

ライブほどこだわりのない時間はない

花がゆっくりと枯れて行くように

僕は僕から一番遠いところにあるみたいに

あのときだけは本当の自由だよ

たったひとりなんだから

綾部

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